アジア企業が米国での特許出願・権利化費用を50%削減する方法

米国は、世界最大の経済大国として知られています。そのため、米国で事業を展開することは、知的財産を重視する企業にとって避けては通れないことです。このため米国で特許出願を行うことは、企業が競争力を維持するために不可欠となります。特に、2018年の米国での特許取得件数増加を牽引し、現在でも米国をしのぐ勢いで世界的に特許出願をリードし続けているアジア企業にとって、特許出願は必須とも言えるでしょう。パンデミックによる経済的影響を考えると、米国での特許出願・権利化件数を最大化することは、アジア企業にとって困難になっているかもしれません。この記事では、アジア企業が米国における特許出願・権利化費用を50%近く節約できる方法を紹介します。 米国における特許権保護の重要性 米国は、GDPが世界経済において4分の1近くのシェアを占める経済大国であることは間違いありません。米国における特許権保護の重要性は、いくら強調してもし過ぎることはありません。さらに米国では特許権の保護および実施体制が整っており、IPエコシステムに対応できるようになっています。 こうした好条件にもかかわらず、アジア企業は、米国での特許出願を躊躇する場合があります。米国での特許出願・権利化にかかる費用が非常に高いことがその理由です。しかし本記事でとり上げる方法やモデルを採用すれば、パンデミックの影響を受けた現在の経済シナリオでも知見に基づく意思決定ができるようになります。さらに、特許ポートフォリオの全体的な質を損なうことなく、米国出願・権利化にかかる費用の削減を実現することができます。 アジア企業が特許出願・権利化において直面する課題 アジア企業の多くは、最初に自国の言語で特許出願を行います。このように出願された特許は、自国の特許明細書規則に準拠しています。そのため米国に出願する場合は、特許明細書を英語で作成する必要があります。またアジア諸国の特許明細書規則は米国の規則とは異なるため、米国の規則に合うように特許明細書を作成したり修正したりする必要があります。このように特許明細書を翻訳したり新たに作成したりすることは、自国の言語で作成した特許明細書に対応する特許を米国で出願する際の課題となっています。 高い翻訳費用:米国での出願にあたり、自国の言語で作成した特許明細書を英語に翻訳するには高い費用がかかります。例えば、日本企業が最初の特許明細書を日本語で作成し、それを英語に翻訳して米国で特許出願を行う場合、どのような方法で出願するかによって莫大な費用が発生する可能性があります。 高い明細書修正費用:英語に翻訳された特許明細書を米国出願用に修正する際の弁護士費用が高いことも、アジア企業が直面する課題です。弁護士は、米国特許出願規則やベストプラクティスに沿って特許出願を細かく修正します。このときの修正費用はとても高いものになります。 特許の優先順位の決定:どの特許も、その技術やビジネスインパクトにおいて同等の価値を有していないため、すべての特許に同等の費用をかけることは合理的ではありません。そのためアジア企業には、特許の優先度を決定し、それに応じて権利化費用を調整し、適切な特許明細書作成戦略を採用することが求められます。 米国特許出願・権利化に関する課題の解決方法 米国特許出願費用を削減する方法 ハイブリッドモデル1:このモデルは、自国の言語の優先権出願に対応する英語の特許出願明細書を作成する際に利用します。このモデルの特徴は、企業が戦略パートナーを利用して、英語で書かれた費用対効果の高い米国特許明細書を作成するということです。このモデルでは企業は、優先権出願を米国特許法に準拠した特許出願に変更するための翻訳費用および米国弁護士費用を節約することができます。特許明細書作成費用を50%近く節約することもできます。この方法について例を挙げて説明します。 例えば、10件の特許を出願するとします。おそらく、そのうちの3件は高優先度の特許、残りの7件は低・中優先度の特許に分類できると思います。ある企業が特許明細書10件の作成を米国の法律事務所に依頼した場合、合計で55,000ドル近くの費用がかかることになります(この数字は、Sagacious IPのIP分野においてこれまで集められたデータに基づいています)。 ここでハイブリッドモデル1を利用して、高優先度の特許出願3件を米国の法律事務所に依頼し、残りの特許出願7件を戦略パートナーに依頼すると、合計費用は約27,000ドルとなります(高優先度の特許出願3件に16,500ドルかかり、戦略パートナーに依頼する7件の特許出願に10,500ドルかかる)。このようにIPパートナーが関与すると、費用の50%近くを節約することができます。 ハイブリッドモデル2:アジア企業の中には、最初に英語で特許明細書を作成し、それを自国の言語の明細書に翻訳することを希望する企業もあります。この場合アジア企業は、ハイブリッドモデル2を利用して、低・中優先度の特許の明細書作成を戦略パートナーに依頼して出願を行うのが一般的です。この方法を使うと、企業は翻訳費用や米国弁護士費用を節約することができます。 上記と同じ例で、ハイブリッドモデル2による特許明細書作成費用と米国の法律事務所モデルによる特許明細書作成費用を比較してみましょう。ハイブリッドモデル2の場合、高優先度の特許明細書3件を米国の法律事務所に依頼して作成する費用は24,000ドルとなり、低・中優先度の特許出願明細書7件を戦略パートナーに依頼して作成する費用は17,500ドルとなります。さらに、これらの特許明細書を現地の言語に翻訳するために25,000ドルかかります。したがって、合計費用は約66,500ドルとなります。 一方、アジア企業が特許出願10件すべてについて米国の法律事務所のみで明細書を作成した場合、その費用は約105,000ドルとなる可能性があります。このように、ハイブリッドモデル2を利用すると、費用を約37%削減することができます。 米国での特許権利化費用を削減する方法  ハイブリッドモデル1:このモデルは、オフィスアクションへの応答書作成を米国弁護士に依頼することをやめて、費用を削減するというモデルです。簡単に言うと、低・中優先度の特許出願に対して、戦略パートナーがオフィスアクションへの応答書のドラフトを作成し、企業側の弁理士がそのレビューやフィードバックを複数回行うことで応答書を完成させます。このように作成されたオフィスアクションへの応答書を米国弁護士を通じて提出します。 アジアの法律事務所が、特許出願1件についてオフィスアクション2件を受け取ると仮定します。米国の法律事務所が優先権出願3件に対する応答書を作成する費用は、オフィスアクションごとにほぼ3,000ドルとなり、合計で18,000ドルとなります。同様に、戦略パートナーが低・中優先度の特許出願7件に対する応答書を作成すると9,800ドルかかり、これらを合計すると27,800ドルとなります。一方、特許出願10件に対する応答書作成すべてを米国の法律事務所のみに依頼した場合、その費用は60,000ドルとなります。 ハイブリッドモデル2:このモデルでは、戦略パートナーは、企業側の弁理士と連携して米国の法律事務所を利用します。具体的には、オフィスアクションへの応答案を法律事務所の弁護士に送付し、米国の弁護士からのフィードバックに基づいて最終的な応答戦略を決定します。ハイブリッドモデル2では、戦略パートナー自身がオフィスアクションへの応答書作成業務の大半を行うため、費用削減が実現します。  それでは、このモデルによる費用削減の仕組みを理解するために、オフィスアクションへの応答書作成を米国の法律事務所のみで行う場合の費用と比較してみましょう。アジア企業が特許出願10件すべてを米国の法律事務所モデルのみで行った場合、60,000ドル近い費用がかかります。 しかし、高優先度の特許出願3件のオフィスアクションへの応答書作成のみを米国の法律事務所に依頼した場合、費用は約18,000ドルとなります。低・中優先度の特許出願7件の応答書作成を戦略パートナーに依頼した場合、費用は約9,800ドルとなります。これらを合計すると、34,800ドルの出費となります。この費用には、戦略パートナーが作成した応答書をレビューするための米国の法律事務所の費用(7,000ドル)も含まれています。  特許の分類による優先度の決定上記のモデルを活用するためには、特許を優先度に基づいて分類する必要があります。具体的には、発明の新規性、将来のビジネスインパクト、技術的重要性を基準に特許を評価し、その優先度を「高い」、「中程度」、「低い」に分類します。このように特許の優先度に基づいて分類を行うことで、アジア企業は、適切な特許出願戦略を選択できるようになります。特許の優先度を決定する方法として、以下の3つのタイプに分類するというものがあります。 コア特許:企業のある特定の製品または複数の製品の中心となる発明に関する価値の高い特許。これらの特許は、競合他社の製品との重要な差別化要因として機能します。 周辺特許:コア特許の周辺にある発明を保護する特許。コア特許の代替的な実施形態や技術を中心に展開されます。 改良特許:既存の技術や製品に若干の改良を加えた特許。改良特許は、コア特許や周辺特許ほどビジネス価値は高くないということになります。 IP戦略パートナーによる支援は、多くの場合、発明の優先度の決定や分類に役立ちます。さらに、優先度の決定に基づいて、パートナーは、特許明細書作成のための適切な戦略を選択する手助けをします(記事:発明の優先度に基づいて、戦略的に特許ポートフォリオを構築する方法をご覧ください) 費用対効果の高い米国特許出願・権利化のための正しいIPパートナーの選択方法 これまで説明したような米国特許出願・権利化の費用削減のためのソリューションを実現するには、IPパートナーの関与が必要です。このパートでは、戦略パートナーと連携する前に確認する必要のある、パートナーに望ましい要件について説明します。 複数国での特許実務に対応できる豊富な知識 資格や経験を十分に備えた特許明細書作成チーム 強力な技術バックグラウンド これらの条件を満たした戦略パートナー候補者に、特許明細書作成のトライアルを実施し、特許明細書作成の実績やスキルを評価する必要があります。また技術面接を実施し、候補者の知識を確認する必要があります。まず2、3件の特許でパイロットプロジェクトを実施し、成果物の品質、納品効率などの重要な要素を確認することを強くおすすめします。 まとめ パンデミックによって経済的な圧力を受けているアジア企業は、最適な費用で米国などの先進国に特許出願を行うことが不可欠になっています。米国に出願すると、競争力を維持できるだけでなく、新たな収益源が生まれます。上記のように、IPパートナーは、米国特許出願・権利化実務で戦略的な役割を果たすことによって、費用の大幅な削減を実現します。 Sagacious IPの特許明細書作成サービスおよび特許権利化サービスは、各国特許庁での出願要件を満たし、包括的なポートフォリオを構築することができるよう、それぞれの企業を支援するように設計されています。経験豊富な特許実務家チームは、合理的で費用対効果の高いソリューションを提供します。このテーマに関するウェビナーは、こちらからご覧になれます。 Tarun Kumar Bansal(社長)、Pankaj Garg(特許技術者)、編集チーム  

特許のライセンス許諾と譲渡 – 陥りやすい3つのミス

強力な特許ポートフォリオを形成している多くの企業は、特許収益化において正しい戦略を選ぶことに苦労しています。これらの特許の譲渡やライセンス許諾に伴う高額な取引では、失敗は可能な限り避けたいものです。このときに問題が発生すると莫大な損失をこうむるためです。次の記事では、特許のライセンス許諾または譲渡にあたり特許から最大の価値を引き出すために、企業が避けるべき3つのミスについて紹介します。まず、特許のライセンス許諾と譲渡の必要性について説明します。 特許のライセンス許諾や譲渡が事業戦略にとってなぜ重要なのか 一部の企業は、特許をその場しのぎの収益取引とみなしており、大きな事業戦略の本質的な部分として考えていません。そうではなく、企業は、特許を中核的な事業活動を補完できる恒常的な代替収益取引として捉えるべきです。特許を取得した場合、その特許を活用するための方法がいくつかあります。たとえば、特許技術を自社製品やサービスに組み込んで実用化したり、高額で譲渡したりすることができます。 また、特許をライセンス許諾してロイヤリティで利益を得るという方法もあります。しかし、特許のライセンス許諾や譲渡に関する契約は非常に複雑なものとなることがあるので、多額の損失を生むようなミスをしないように注意しなければなりません。こうした問題の発生を予測し、完全に回避する必要があります。 特許のライセンス許諾や譲渡における3つのミスを防ぐには 次の図は、企業が特許の譲渡やライセンス許諾の際に陥りやすい3つのミスを示しています。それぞれのポイントは、この図の後の段落で説明します。   基本特許の譲渡 企業では、適切なポートフォリオ評価を行わないと、事業にとって中核となる基本特許を譲渡してしまうおそれがあります。そのような特許は譲渡するのではなく、ライセンス許諾することが常に推奨されます。譲渡してしまうと、企業は市場での競争力を失ってしまうおそれがあります。自社の特許ポートフォリオを定期的に評価し、事業にとって中核となる特許と中核とならない特許を特定する必要があります。 また、多面的な競合分析を行うことで、競合他社の中核領域と非中核領域を特定することもできます。たとえば、ある企業にとって中核とならない特許が競合他社にとって中核となる特許である場合、その特許は競合他社にとっての基本特許となります。したがって、これらの特許は譲渡すべきではなく、防衛目的で使用することが推奨されます。 特許の評価ミス 特許の譲渡やライセンス許諾の際に冒す2つ目のミスは、特許の評価ミスです。特許の評価には業界標準となるガイドラインがないため、企業は、パテントファミリーや特許ポートフォリオ全体の価値を誤って評価してしまうことがあります。特許の価値を正確に判断するには、市場要因、コスト要因、収入要因に基づく特許評価アプローチが大いに役立ちます。 これらの手順に精通した社外の特許評価専門家は、特許を評価し、その価値を正確に評価するために必要な経験と専門分野に特化した知識を備えています。こうした専門家は、市場にある類似の特許製品の既存価格、特許に使用されている技術の進歩のレベル、既存製品によって侵害される可能性などを分析します。このようにして社外の特許評価専門家のサポートを受ければ、譲渡やライセンス許諾の契約において特許を過小評価することを防ぐことができます。 ピッチデッキの構成ミス 最後に、企業が特許や特許ポートフォリオの譲渡やライセンス許諾を行う際に、ピッチデッキ構成におけるよくある間違いについて説明します。簡単に言えば、パテントピッチデッキとは、譲渡またはライセンス許諾が可能な特許について、市場情報や特許譲受人/ライセンサー情報とともに説明するパワーポイント資料を指します。 知的財産権を多く保有する企業は、数百件の特許からなる特許ポートフォリオを形成していますが、よくあるミスとして、70~80件の特許を1つのピッチデッキにまとめてしまうことが挙げられます。このようにすると、ピッチデッキ内の各資産の特許あたりの単価が下がってしまいます。さらに特許譲受人にとっては、ピッチデッキ全体の魅力が失われてしまいます。 ピッチデッキを構成するときの効果的な方法は、1つのデッキで紹介する特許を20~30件にすることです。さらに、ピッチデッキでは、ディールドライバー特許とイネーブラー特許の両方を紹介する必要があります。特許あたりの評価を上げるには、ディールドライバーとなる主要特許と、それをサポートするイネーブラー特許をうまく組み合わせることが推奨されます。イネーブラー特許があれば、ディールドライバー特許の技術的特徴、特許譲受人やライセンシーの保有する技術が強化されます。 またライセンシーや特許譲受人は、特許ポートフォリオの価値を高めることができるようになります。イネーブラー特許は、既存技術の価値を高めるものであり、市場に存在する製品によって直接侵害されることはありません。したがって、ピッチデッキには、ディールドライバー特許とともにイネーブラー特許の候補を含める必要があります。 特許を最大限に活用する 特許ライセンス許諾の契約はかなり複雑なものになるため、企業は、社外の戦略的パートナーに積極的に支援を求め、契約を正しく締結できるようサポートを受ける必要があります。彼らは、コストのかかるミスを避けることによって、組織が特許や特許ポートフォリオの可能性を最大限に活用するのを支援します。 Sagacious IPの特許ライセンス許諾および収益化サービスをご利用いただくと、特許ポートフォリオを正確に評価でき、新しい収益源を生み出せるようになります。Sagacious IPの専門家は、お客様が効果的な特許収益化サービスを選べるよう、エンドツーエンドで費用対効果の高いソリューションを提供します。 著者:Aman Goyal(ICTライセンス許諾チーム)、編集チーム